「アーモンドって、いつからあるのかしら。ねぇ。」
体調がよくないならこういうものを食べなさいと、妹さんから送られてきたアーモンド入りのお菓子を眺めながら、まったく嫌になっちゃうわと続けられる。
「このお菓子、小さい頃に食べたことがあります。」と私が言うと、
「そうよね~!あなたの小さい頃って…最近じゃない!」と大きく笑う。その姿は90歳にも、圧迫骨折をしているようにも見えない。この仕事をしていて不思議なのは、町中でお会いする時よりもずっと、おうちにいる時の姿の方が若く活き活きとして、チャーミングに見えることだ。
「ねぇ、落花生はどう?あったかしら。」
「落花生は…あー、どうでしょう。あ、でも千葉で採れるから。」
「あぁそうね、殻付きのがあったわね。剥いてあるのはどうだったかなぁ。」
「アーモンドも殻の中に入ってるんですよ。梅干しの種の平たいのみたいな。」
「じゃあ胡桃と一緒なのね。へぇ~」
別のお宅で聞いたお話を思い出した。
「そういえば、戦前にプリンを召し上がったという話を聞きました。」
「あら、それはめずらしいわよ。どこの方?」
「たしか横浜の方…」
「だからよ~。うちは下町だから。でもあっちの方も空襲ひどかったでしょう。」
「山から海まで見渡せたっておっしゃってました。東京の空襲の時は、向こうの空が赤くてって。」
「そうよ、うちは家族みんな無事だったけど。火の海で、あの橋を渡ってね…」
身体の弱い子どものためにお母さんが毎月お参りに行って、帰りに参道で買ってきてくれたお饅頭。
大きさや色の異なる甘納豆がぎっしり詰まった箱を家族一人にひとつずつ買ってきて、お母さんに怒られたお父さんの話。その箱をしっかり抱きしめた話。
お芋を混ぜたおかゆ。
食べ物と交換するために、自分の大切な洋服が農家さんの手に渡ることになり、それを着ている子を見かけたときのこと。
お店によって異なる、水無月の小豆の炊き方。
お母さんが突然亡くなり、友だちには「今、町へスイカを買いに行っている」と説明した話。
食べ物のある風景の話。食べ物を起点に、その時の景色がどんどん広がってくる。
なぜか食べ物が登場すると、時間と空間が広がる気がする。
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