2016年9月9日金曜日

歌というかたちを借りて

90歳のお誕生日を数年前に迎えたIさん。
「ほんとよー」が口癖です。

「あの曲、どうなりました?」と尋ねると、
「そうなのよ、ちょうどその話をしようと思ってたところ。テープお聞きになる?」と、カセットレコーダーを探してくださった。

Iさんはコードも習得されていて、伴奏なしの譜面でもコードが書いてありさえすればピアノで弾き語りできる。
「指を動かすのが脳にいいのよ」とか、
「ドミソって思って、脳に伝わって、ドミソって弾くっていう流れがいいみたい」とか、
「歌うって深く呼吸するでしょ、それが体にもいいのよね」とか、
歌うことと健康を、テレビや何かで知った情報と組み合わせて話してくださる。


でも、今日お話を聞いていて、
もしかしてこれって心にも体にもすごく影響しているのでは?と思ったことがあった。
それは、「だれかの前で自分を表現する」ということ。

Iさんが通う歌の先生のもとには、ほかにも生徒さんがいらっしゃるそうで、
お話を聞いていると、下は50代くらい~上はなんと100歳。

その方々全員に、たしか2カ月に1回くらいのペースで前に出て歌う機会がある。
そこでの表現は、誰からも優劣つけられることのない、その人だけの舞台。
その刺激って、脳トレの何千倍くらいになるんじゃなかろうか。


「気持ちを込めてって言われても、こんなロマンスは経験したことないわよ」
「そうよね、ふふふふ」
「何言ってるのよ、この時だけはそのつもりになって歌うのよぉ」
そんな会話を繰り広げながら、
先生からのアドバイスを聞いたり聞き流したりしながら、それぞれが自分なりに表現する場。

歌というかたちを借りて、きっとそこではその人が浮き上がってくる。そんな気がする。
でもきっと、おばあちゃまたちはそんな風には考えずに、「次あなたよ」と言いながらそわそわしているんだろうな。だからこそ、飾らないその人の歌が出てくるんだろうな。

その場面を一度も見たこともないのに、イメージだけはどんどん広がります。


こういう機会は大人になるとだんだん減ってくるような気がする。
本音は言いにくい、言えば「ガンコね」と言われたりもする。


「みんな(身体の)どこかしら悪いのよ。お茶を飲みながら話すのは、どこが悪いとか誰が何の病気になったとかそういう話。それでも来て歌うのよ。」

もはやわたしのイメージの中では、カッコいいおばあちゃんの集団でしかない。
きっと街で見かけても、その方たちだとは気がつかないだろう。
でも、どんな人の中にもこういうカッコよさがあると思うと、もっと話をきいてみたいなと思うのである。

(え)



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